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愛媛新聞社  多田 良介
船団荒波を行く(トロール漁体験記)W

         = 4 = 「仲 間」

「メシにしようや!」。船内での楽しみは、何といっても食事。魚の選別作業がひと段落すると、乗組員が次々と食堂に駆け込んでくる。
 この日はゆでたエビとカニ、スルメイカの刺し身が食卓に並ぶ。どれもさっきの漁で捕れたばかり。絶品だ。まかない係中野秋義甲板員(68)自慢の、魚がたっぷり入ったみそ汁もうまい。
 船内では魚は食べ放題。「甲板から、好きな魚とってきていいぞ」。浜田淳二漁労長(43)が声を掛けてくれた。
 
1日4回ある食事の時間は、とにかくにぎやかだ。菊地健二機関長(43)と井上勇気甲板員(44)がかけ合い漫才のように冗談話で盛り上げる。他の乗組員たちも好みのアルコールを手酌でやりながら合いの手を入れ、笑いは絶えることがない。
 ただ、そんな時間も長くは続かない。1人、2人と抜け、食事が始まって40分もすると食堂から人けが消える。みな「ハウス」と呼ばれる寝室で体を休めるのだ。
 トロール船の生活は厳しい。操業は各船1日ほぼ4回、兄弟船と交互に網を入れるため、両船で計8回、2〜4時間網を引き、デッキでの選別作業が1〜2時間、これが24時間、昼夜の別なく繰り返される。睡眠が取れるのは網を引いているときだけだ。
 1回の水揚げが多ければ、選別作業に時間を要し、次の投網まで休憩がないこともある。だから、乗組員は寸暇を惜しんで仮眠を取る。
 今航海でたびたび受けたアドバイス。「メシはたくさん食っとけ」「寝れるときに寝とけ」。体力勝負のトロール漁。メシも睡眠も仕事のうち、というわけだ。
 「気性が荒い」とされる海の男たちの集団生活だが、乗組員同士でけんかになることはほとんどないという。中村哲二船長(49)がその理由を説明してくれた。「嫁さんより一緒にいる時間が長いんだ。自然と、仲間意識、身内意識ができる。もめても長引かん」
 全長33メートル、幅6.6メートルの海幸丸。世間から隔絶された、この小さな空間が乗組員の生活の場だ。ここで9月から翌4月まで8カ月間の漁期中は、月2日の休みを除いて四六時中顔を合せる。だからこそ人間関係を大切にする。
 船上ではいつもこんな光景を目にした。選別作業中、手の空いたものが必ず全員にタバコをくわえさせ、火をつけていく。作業が長引いたときにはだれかが缶コーヒーを冷やしておき、みんなに配って回る―。
 
中村船長は続けた。「仕事がきつくて辞めるやつはいても、人間関係で辞めたやつはおらん」
 航海も3日目を終えようとしている。慣れない生活リズムに、体力的には疲れもたまってきた。ただ温かで、家族的な船内の雰囲気が、すこぶる居心地がいいと感じるようになっていた。

(2004.5.5 愛媛新聞掲載)
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