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愛媛新聞社  多田 良介
船団荒波を行く(トロール漁体験記)U

         = 2 = 「漁労長」

 快晴、微風。いい凪(なぎ)だ。航海2日目の朝を迎えた。大漁への期待が膨らむ。
 前夜来、3度網を引いたが、釣果は振るわなかった。「もうちょっと、東へ行ってみようか」。第15海幸丸を操る浜田淳二漁労長(43)は、漁場の変更を決め、兄弟船の第16海幸丸に無線で連絡を取った。
 トロール漁は漁労長の腕次第、といわれる。プロ野球に例えれば、船主がオーナーで漁労長は監督。現場での指揮権はすべて漁労長が握る。漁場の選択、網を引く時間、帰港のタイミング・その決断一つが会社の運営や乗組員の生活、生命までも左右する。不振が続けば、船主から首を切られることもある。文字通り、実力の世界。

 乗組員からは、敬意と親しみを込めて「船頭」「親分」と呼ばれる。
 浜田漁労長は高校卒業後、すぐにトロール船に乗り込んだ。「飯炊き」からスタート、24歳で甲板長、27歳で船長に。「やるからには1番上に立ちたい」。そう考えて、がむしゃらに働いた。念願の漁労長に抜てきされたのは5年前。前漁労長から指名された。現在、八幡浜漁協所属のトロール船で、1番若い漁労長だ。
 漁労長のとりわけ大きな仕事は、漁場選び。そのためには豊後水道から高知、宮崎、鹿児島沖に及ぶ広大な操業区域の海を知り尽くさねばならない。
 浜田漁労長は、ブリッジ(操舵室)に出入りできる船長になってから、前漁労長の様子をじっくりと観察してきた。出漁のたびに網を引いたポイント、水深、岩のある場所、捕れた魚種、水揚げなどをすべてノートに記録。もう20冊近くになるそのノートは「自分の財産」。決して、だれにも見せない。
 ブリッジにはレーダー、魚群探知機、潮流計などが所狭しと並ぶ。そんなハイテク機器のデータは十分参考にしながらも、最終的に頼りにするのは、経験に裏打ちされた自分の勘。ここぞのポイントで「やるぞ」。投網開始のベルを鳴らす。
 漁場を変えた先での水揚げも4番網はトロ箱で30箱5番網は44箱に終わった。3年前には同じ高知沖で2,300箱980万円の1航海の水揚げ自己記録を作ったこともある。「前はここらにタイがおったのになあ」
 と、漁協からその日の市場取り引きの相場がファックスで入った。「タイ(1箱)7,000円、モンダイ1,500円M」漁師にとってやる気をそがれる値が並ぶ。ひところならタイは一万円は下らなかった。
(網を)引いても捕れん、捕っても売れん」。不漁、安値にさすがの船頭からも嘆き節が漏れた。

(2004.5.3 愛媛新聞掲載)
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