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愛媛新聞社  多田 良介
船団荒波を行く(トロール漁体験記)T
 
 八幡浜市の基幹産業、トロール漁が試練の時を迎えている。全盛期、50隻を超えていた船は10隻に減少。つい10数年前まで30億円前後で推移していた水揚げ額も減り続け、今シーズンはついに10億円を切り、7億5千万円まで落ち込んだ。トロール船は“時代の荒波”を乗り越えられるのか。4月中旬の4日間、船に乗り込んで漁の現場を取材した。
        (八幡浜支社・多田良介


          = 1 = 「1番網」

ジリリリッ。突然の、そして歯切れのいいベルの音にたたき起こされた。急いで船室を出ると、海と空を朱に染めた夕日がちょうど高知の山並みに沈みかけていた。
 午後5時半、高知県興津岬沖合10キロの太平洋上。八幡浜漁協所属の中型トロール船、第15海幸丸(125トン)のこの航海最初の漁、1番網がいまから始まる。ベルはその合図−。
 同じように仮眠をとっていた乗組員たちがかっぱ姿で次々とデッキ(甲板)に飛び出す。「さあ、やるか」。滑り出しの漁だけに気合も入る。魚本徳久甲板長(32)らの手慣れた作業で奥行き88メートルもある巨大な網が船尾から勢いよく海に滑り込んだ。
 浜田淳二漁労長(43)はじめ8人の乗組員を乗せた第15海幸丸は、兄弟船の第16海幸丸とともにこの日の午前10時、八幡浜港を出港。豊後水道を南下、足摺岬で進路を北東に変え7時間半かけてなじみの漁場にやって来た。
 中型トロール船による沖合底引き網漁は、2隻の船で1つの網を引く。海上で2隻が10メートル余りまで接近、乗組員が網の片方につながるワイヤを兄弟船に器用に投げ渡す。その後両船が約600メートルの間隔で2〜4時間、海底にじっくり網をはわせ、魚を捕らえる。
 午後10時20分、再びベル。いよいよ揚網(ようもう)開始だ。海底の網をローラーで一気に巻き揚げる。延長1.4キロ以上あるワイヤとロープ、網まですべてを引き揚げるのに30分はかかる。ライトに照らし出されてついに獲物が姿を現した。網に掛かった魚は何千匹、いや万に達しているだろうか。とにかく見たことないほどの量。
 捕った魚はデッキの1区画にどっと流し込まれる。船上に充満する魚のにおい。選別作業が始まる。乗組員は黙々と、それでいて効率よく動く。山本光雄甲板員(57)がタモでザックと魚をすくう。それを中村哲二船長(49)、菊地健二機関長(43)らが種類サイズ別に鮮やかな手さばきでトロ箱に投げ分ける。作業を終えるまでに1時間半を要した。
「昔は一日中かっぱが脱げんこともあった」と山本寛治甲板員(45)。以前はやってもやっても選別が終わらないほど漁獲があったがいまは魚がぐっと減った。大量に思えた魚も実は大したことはないのだという。
 1番網の釣果は、エソ17箱、アジ13箱、マダイ、イトヨリ・・・、計48箱。

 ブリッジ(操舵室)から浜田漁労長が水揚げを確認しに降りてきた。こんなんじゃ話にならん」。そう言い残して再びブリッジに姿を消し、2番網の準備に取り掛かった。
 航海は始まったばかり。これからが勝負だ。(続く)

(2004.5.2 愛媛新聞掲載)
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