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取締役 宮本 英之介
八幡浜トロール漁業・生き残りへの取組み

【八幡浜のトロール漁業】

 現在、愛媛県八幡浜市では5統10隻の沖合底引網トロール船が操業しています。沖合底引網漁業とは、農林水産省の許認可事業(指定漁業)で、八幡浜港を拠点に操業を行う漁船は全て「以東沖合地域」に属します。船の全長は約33メートル、1隻125tの船が2隻で1つの網を曳く「2艘曳き」と呼ばれる漁法が特徴です。
 主な操業区域は、宇和海豊後水道と呼ばれる海域で、宮崎沖や鹿児島沖、高知沖が主な漁場です。トロール漁業の漁期である9月から5月の間、1隻に10人ずつ乗組員が乗船し、1週間に2回から3回、漁獲された鮮魚を八幡浜港に水揚げしています。通常、マグロ漁船やイカ釣り船など、漁船といえば一つの目標物が連想されがちですが、トロール漁業の特徴は、漁獲物の種類の豊富さにあります。タイやヒラメ、クルマエビといった高級魚からアジやイカといった大衆魚、エソやヒメチ等の練り製品の原材料まで様々な種類の鮮魚が水揚げされます。このトロール船の特徴である魚種の豊富さは、そのまま全国から見た「八幡浜港」の特徴ともなっています。
 八幡浜では、トロール漁業の最盛期(昭和25年頃)には27統54隻のトロール船があったといいます。現在ではトロール漁業を行う会社も減少(激減?)し、実質3社のみとなっています。トロール漁業の衰退の原因には、過大な設備投資という経営面のリスクや、漁獲量の減少、海外水産品や他の食品の普及による消費者の魚離れ、それに伴う魚価安、採算割れ等、様々な面が考えられます。しかし、漁業経営に携わるものとして業績悪化の原因を統制不可能な外部環境のみに求めていては始まりません。そこで従来の鮮魚の流通過程を説明し、現在わが社で取り組んでいる事業を紹介してみたいと思います。

【鮮魚の流通過程】

鮮魚流通の核を担う魚市場には、産地市場と消費地の中央市場があります。八幡浜はいわゆる産地市場で、松山、大阪、東京といった消費地にあるのが中央卸売市場です。八幡浜港に水揚げされた鮮魚は、八幡浜市漁協(荷受け)により「競り」にかけられ、地元の仲卸業者に販売されます。仲卸業者によって競り落とされた魚は、松山や大阪、築地といった消費地の市場に出荷されます。そこで産地市場と同じように競りが行われ、消費地の仲卸売業者を通じて小売業者へと販売されていきます。通常の「生産・卸・小売」という商取引に加え、「仲卸」という2次卸が介在し、尚且つ産地市場と中央市場で2度取引が繰り返されるという特徴を持っています。(下図参照)

このような流通過程が形成された背景には、鮮魚という商品の持つ特性が反映されています。天然の鮮魚の水揚げは天候や自然といった環境に大きく影響されます。また、産地と消費地が離れている上、生鮮品のためスピーディーに且つ大量に流通を行う必要があるのです。市場取引は、「必要な量を必要な場所へ」という「集荷」や「需給調整」の機能を果たしているといえます。

しかしながら、物流や情報技術が高度化し、産地と消費地の距離的・時間的ギャップが縮小している中で、従来型取引の多段階の流通構造の問題点も指摘できます。特に顧客サイドから見ると、流通過程での販売手数料や業者のマージン、物流費といったコストが、最終的には鮮魚を購入する末端の消費者に転嫁されているのも事実です。他の工業製品のように、流通を経るごとに製品自体に価値が付加されていくのであれば、価格が高騰するのも理解できますが、鮮魚の場合、加工されない限りは商品自体の価値が上がることはありません。産地市場に水揚げされて消費地の皆様の食卓にのぼるまでの時間(通常3日から4日)で、鮮魚自体の品質(鮮度)は確実に低下しています。「鮮度が落ち価値は下がっているにもかかわらず、高い価格で販売される・・」、私はこの過程を、「鮮魚流通のパラドックス」と呼んでいます。

【当社の沿革】

 私の所属する(有)昭和水産の創業は昭和43年ですが、漁業を家業として始めたのは大正年代まで遡るようです。戦後の復興期には日本全国で食料が不足していたため、動物性たんぱく質の供給源である魚を漁獲していた水産会社は栄えていたようです。その後、昭和46年には、関連会社として(有)佐賀水産を設立し、創設当初は唐津、現在は下関に拠点を移し、同様の沖合底引網漁業を行っています。
 これまでの主力事業はまさに漁業であったわけですが、近年の魚価安の影響から、市場に頼ることなく自ら販売力・商品力を身につける必要性が高まりました。そこで平成に入ってからは新しい事業の柱として流通事業にも取り組み始めたのです。現在は、市場前の小売店での水揚げ鮮魚や自家製の一夜干し販売、地元の高齢者施設への食材の納入、首都圏のレストランやスーパーへの鮮魚の直送が流通部門の主な事業となっています。

【流通事業の展開】

 流通事業の本格的なスタートは、平成3年、八幡浜魚市場前に小売店を出店したのが始まりです。同時に、自社船「海幸丸」で水揚げされた鮮魚を加工した一夜干しの販売も開始しました。当社の加工製品の原材料は全て宇和海の天然魚です。そのため、輸入の冷凍素材を使った一夜干しのように安価ではないのですが、お中元やお歳暮等の贈答用を中心に年々出荷量は増えています。
 次に八幡浜や近隣の保内町、大洲市の高齢者施設への食材の納入があります。これは鮮魚の下調理は全て自社で行い、1人前の切身にした状態で納品するため、かなりの手間と時間がかかる仕事です。当初は、限られた病院施設を対象に行っていたのですが、数年の間に地元で介護施設や老人ホームが急増したため、今では納入先も10社を越え、1日平均800食程度の切身を調理して納品しています。
 平成11年からは首都圏の料理店への鮮魚や加工品の直販事業も開始しました。自社船で水揚げされるカサゴやアカムツ、ヤガラといった比較的高級な魚を詰め合わせ、クールの航空便・宅配便でお届けするサービスです。この事業はインターネットや営業の支援業者経由で接触のあった料理店に対して、直接営業し、注文をいただき定期で納品するものです。競争の厳しい首都圏では、料理店様も他店にない独自の仕入ルートや食材・メニューの差別化を模索しているお店が多く、本物志向、高級志向のイタリアン、フレンチのレストランを中心に取引が増えています。

【今後の課題・展開】

 以上、当社で力を入れている流通分野の取組みをご紹介しました。流通事業への取り組みは、本業のトロール漁業を維持するための生き残りの方策と考えています。これまでの生産者の特徴は、取引において価格決定権がなく、業績の大半を、他者、つまり相場に依存してきたという点にあると思います。当社の理想とする形は、自らの取引先も市場と同様に一つの販売チャネルと認識し、自社で価格決定できる販路を増やすことです。同じ魚でも加工を施したり、品揃えを工夫して取引先に提案することでより付加価値がつき、適正価格での販売ができるのです。
 当社のような生産者企業の市場外流通への取組みに対しては、市場内の荷受業者や仲卸業者からの批判や圧力があるのも事実です。しかしそもそも市場とは、漁業に従事する生産者が生き残り、経営を維持できてこそ成り立つものです。今やどの業界でも「問屋中抜き」「垂直間競争」は当たり前の話です。末端の消費者にとっての価値に主眼を置き、流通の各段階の業者が各々の強みを生かし適正な競争をしていくことで、水産業全体が活性化すると考えています。

 これらの取組みで流通部門の売上は年々増えてはいますが、関連会社も含めた売上構成を見た場合、まだ全体の1割程度であり、依然不確実性の高い漁業の売上に依存した経営であることには変わりがありません。当面は自社流通の割合を3割程度まで高め、計画性の高い経営を行えるように事業構造を転換していく予定です。そのため今後は、市場で単価の取れない魚、練り製品の原材料や小魚類にいかに付加価値をつけていくかが課題です。この点については、一夜干しや練り製品、珍味等の商品開発力を強化することを計画しています。また、取引先へより安定的に商品を供給できる体制を作るため、下関の関連会社や他の生産者との連携も検討しています。

 最近は、食品に対する安全志向が強まっていく中、農業の分野を中心に「生産者の顔の見える販売」を行っている例が各地の小売店で見受けられます。しかし鮮魚や水産加工品の場合、水揚げされた漁港や加工された場所によって産地表示が異なるという問題があります。その点当社の場合は、自社船「海幸丸」で水揚げされた鮮魚に関してはトレーサビリティ100%で供給することが可能です。安全志向・本物志向を強める最近の消費者嗜好の変化は、当社の流通事業にとっては追い風になるものと思っています。
 これまでの漁業者の関心の中心は、「何の魚がどれだけ獲れていくらで売れたか」、経営用語で言うところの「生産者志向」であったわけですが、これからは漁業にも「マーケティング」の考えが必要だと思うのです。消費者サイドへ関心の軸足を移し、小売ビジネスの現場やご家庭での食卓シーンを想定した商品開発や流通改革に生産者自ら取り組んでいくことこそが、我々生産者の生き残る道であり、使命であると思っています。(2004.3.12)


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